じりじりと熱い日射しが肌を刺す。
俺は朝からの空腹を満たすべく、とあるカレーショップに入っていった。
なんてことはない、どこにでもあるチェーン店のカレーショップだ。
扉を開けた途端、店内の冷気が俺の身体を通っていく。この瞬間が生を実感する。
カウンター席に座り、テーブルの上にあったメニューをもはや惰性として一望する。どうせ注文するものは決まっているのだが、席に着いて即座に声を出すのは恥ずかしいのか意味のない時間稼ぎをする。
30秒くらい目を泳がせていると、とある単語が目についた。
「納豆カレー」。
もちろん注文したい商品ではない。俺は納豆カレーを食べたことがない。
思考が巡る。「名前は知っているが納豆とカレーを合わせたときにどのような味がするのか?」「納豆のネバネバ感とカレーのドロドロ感は口の中でどのような食感になるのか?」「そもそも納豆の味はタレの部分が多数を占めていないか?」「写真を見る限りタレはかかっていないのか?」「なぜこの納豆カレーは常にメニューの端っこで市民権を得ているのか?」
虜になっていた。俺は今まで人生で交わってこなかった、いや見て見ぬフリをしてきたこの料理のことしか考えられなくなった。
納豆とカレー、本当に合うのだろうか。
興味と不安の割合がちょうど5対5になったとき、俺は呼び出しボタンを押した。
店員が来る。俺は口を開けた。
「な……」
「夏野菜カレーをください」
「ご飯普通盛り、3辛で」
……………………俺は臆病者だ。